昔、札幌の琴似という街に「くすみ書房」という、見るからにオーソドックスな本屋さんがあった。
目の前を通りかかったことはあるけど、店内に入ったことはなく。
そんなくすみ書房はいつのまにか閉店してて、店主も2年前(2017年)に亡くなっていたそう。
私自身は琴似という街には全く思い入れはないけど、なんとなくくすみ書房の安否は気になっていて。でもそんなことは知る由もなく。
では、全く縁がなかったはずの私が何故くすみ書房と店主の近況を知ったかというと、それはたまたま1年前の今くらいに街中に行った時のこと。
当時はウチの息子が小6で入学に必要な用具を時々探索しており、ランドセル並みに丈夫なリュックが欲しくて真っ先に思いついたのが池内というビル。
THE NORTH FACEやMAMMUTのような頑丈さが売りのブランドから、スボルメみたいなオシャレ系も揃ってる若者向けなビルなので、市場調査には手っ取り早いと感じた訳なんだけど、結局私の目を引いたのは、リュックより本(笑)
書肆吉成(しょしよしなり)という古本屋さんで、見たことないマニアックな本ばかりが並んでいて、謎にその場から離れられなくなりちょろちょろしていたら、お店の一角に謎の展示スペースを発見。
そこでやっていたのが、この「奇跡の本屋をつくりたい」を書いたくすみ書房のおっちゃんの足跡を辿る、小さい展覧会みたいなものだった。
※その後池内自体が閉鎖されて、書肆吉成池内店も閉店になりました
もちろん前情報の一切ない私は全てが初。おっちゃんがどんなコンセプトで本屋さんを経営してたか、その間にどんな不幸なことがあって、どうやって一つ一つを乗り越えていたのか。そしてどんなタイミングで亡くなったのか。
自分の本を出版するために書き続けていた遺稿も多数展示され、一つ一つを見ていくうちに、とても手ぶらでは帰れない気持ちになった。
規模がどうのこうのでなく、こんなに心揺さぶられた展示を私は生まれて初めて見たし、絶対今ここでこの本を買わないと後悔する気がした。
(ていうか、正直その場で感動し号泣し過ぎてティッシュもなくなり鼻をすすりながらレジに向かったんだけどw)
「本には奇跡を起こす力がある」と言っていたおっちゃんそのものが奇跡。
おっちゃんがどんな経営をして、世の人々がどんな目でその様子を見ていたのかは、私なんぞがごちゃごちゃ語る必要はないと思う。
世の中は、安くて便利で売れるものばかりが重視される。
そんな中でくすみ書房のおっちゃんは、売れなくても本当に良いものを届けることを使命として、父の代から続いた借金が膨らむ中でも売れなくても良い本を置き続けた。
読めば読むほど、本の中に出てくる全国チェーンのT書店や、某全国一の売り場面積の書店が憎たらしくてしょうがなくなるんだけど、残念なことに私はどちらも御用達(笑)
そして閉店の時に詰め掛けた沢山の人が、くすみ書房を支えきれなかったことを悔しく思って、利便性を優先してネットショップを活用したことや、もっと足を運ばなかったことを後悔した旨が書かれていて、それを見た私もやはりアマゾンが嫌いになるんだけど、やっぱり私はアマゾン御用達_| ̄|○
便利なものに人は流れるけど、その結果亡くすものは大きく、くすみ書房は琴似の貴重な財産だった。
(という私は行ったことがない)
おっちゃんは何故そこまで本にこだわったのか。
おっちゃんは、「本には全ての答えがある」「本には人生を変え、奇跡を起こす力がある。」と信じ続けていた。
特に、小学生・中学生・高校生・大学生に向けて、人生を変えるきっかけを与えられる場所を残していたいからとも思えた。
その優しさとおせっかいぶりが近隣や日本の多くの人の心を動かして、そしてそれは死後本になり、さらに沢山の人の心を動かしている。
グーグル検索をすると、くすみ書房が閉店した後もtwitterのアカウントは生存しており、今でも更新が続けられている。
そして今でもいろんな人が反応を示している。
その一つ一つを見ていくと、あの日本一有名な書店である紀伊国屋書店がくすみ書房の一角を再現したコーナーを作ったり、めざましテレビで尾崎世界観が「奇跡の本屋をつくりたい」を紹介している様子などなど、意外性しかない。
おっちゃんが亡くなる前に開業した北海道日高の浦河町にある小さな本屋さんは、一時閉店したものの今現在は月曜日のみの営業という形で存続しているらしくホッとした。
こうやって、くすみ書房のおっちゃんは、死んだ後もたくさんの人の心を動かしている。
そんなおっちゃんだから、伝説の本屋と言われたのも納得だ。
「本には人生を変え、奇跡を起こす力がある」
そう言い続けたおっちゃんの書いた本が、どの本よりも奇跡を起こすパワーがあるように見える。
くすみ書房という名前の、素朴で安心感のある街の本屋さんはもうなく、地下に併設していた文学談義ができるカフェももうない。
いくら今更「いってみたい」とか「いっときゃよかった」と後悔しても後の祭りで、それがすごく悲しかった。
だけど「奇跡の本屋をつくりたい」には、くすみ書房のオヤジの生き様と心が詰まっていて、困った時や辛い時もそっと優しく背中を押してくれる。
別に書籍に詳しい訳でもない私だけど、本を読んでいると時々、こうやって人生を変えてくれるレベルの出会いがある。
だから、読書は止められない。
(ハズレも多いけど笑)
くすみ書房という本屋のオヤジのおせっかいは決して死なない。
そして、それを成せるのはやはり本しかないんだ。